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116. 熱意を込めたブレンデル会心のベートーヴェンソナタNo.30:ベートーヴェン最後のピアノソナタ三名作中の一つ、最も枯淡で味わい深い。常々均整がとれ、円滑だが、表面的で歯痒かったアルフレッド・ブレンデルの会心の好演。オーソドックスながら熱意がこもり、血が通う、程良く切れと深み、滋味もある。全楽章とも上々の仕上がり。高音が輝き美しいのは録音が精緻だから。9月3日朝8:05~約27分間。名盤はLP初期のイーヴ・ナットの秀演、上記三名作が入っており、いずれもテンポ、強弱が自在かつ的確、彫りが深く、洗練されている。これには到底かなわない。
117. オーボエ協奏曲の名作、アルビノーニのop.9-2:マルチェルロと並んでオーボエ協奏曲の名作を世に送り出したアルビノーニ、これはop.9-8に次ぐ秀作である。オーボエの哀愁を誘う音色に加え、メロディそのものに哀愁が漂う、オケも単なる伴奏を超え活き活きと奏でる明快さと気品に満ちた名曲、バロックの華の一つ。しかしポピュラーではなく耳にすることは稀で、やっとハインツ・ホリガー/イ・ムジチ合奏団の演奏で近日聴ける:9月20日朝7:27~約18分間。実直、オーソドックスと言った印象の標準的な演奏だが、曲想をよく捉えていて一通り楽しめる。お薦めはハンスイェルク・シェレンベルガー/イタリア合奏団、伸びやかなオーボエと洒落たオケ、さわやかな心地良い哀愁にひたれる好演である。
118. 情緒たっぷりのベートーヴェン「田園」、クレンペラーの熱意彷彿:表題音楽で情景を描写したものは聴いていて凡そ退屈するものだが、この交響曲にはドラマがあるせいか、表題通りののどかな感じばかりでなくうねり、変化がありおもしろい。流石ベートーヴェンと言うべき。クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団は重くならないよう気遣いながらゆったりしたテンポで曲の情緒をたっぷり表現している。深み、厚みもある聴きごたえする好演、クレンペラー の熱意の賜物か。ただし第3楽章など部分的にのろいとまで感じる気になる箇所はある。9月20日朝8:23~約52分間。
119. 感動一入、ムラヴィンスキーのチャイコフスキー交響曲「悲愴」:悲しみに暮れている時に聴いて涙ぐみ、やがて再起できる名曲中の名曲である。数ある演奏の中、エフゲニ・ムラヴィンスキー/レニングラードフィルは聴き手を深みに連れ込むような静かな迫力、時として大規模、痛快なフォルテシモが特長。曲想通り悲しみがぐっと胸を締め付けそうになるが、くどくなく、反って垢抜けしているところがムラヴィンスキーの芸格の高さを表わしている。白眉は終楽章、悲しみは極致に達するが、やがて優しく包み込まれる。感動一入である。1960年の録音とは思えない巾、奥行きのある抜群の音質。9月23日朝5:00~約50分間。もう一つの名盤、ジャン・マルティノン/ウィーンフィルはより劇的、抒情的、リズミックで洗練されている。双方甲乙つげ難い。
120. R.シュトラウスのオーボエ協奏曲ニ長調、まるで粋な幻想交響曲:晩年、円熟期の知る人ぞ知る隠れた名作、ジョン・ド・ランシー/マックス・ウィルコックス指揮室内管弦楽団の演奏。ソロ・オーボエは勿論だが、一体とな ってオケも活躍する、奥深い、充実した、まるで粋な幻想交響曲の感じ、ソロとオケのバランス、調和が快適で洗練された好演。殊にランシーのソロは、この曲が彼の勧めで生まれた経緯もあってかしなやかながらひときわ情熱的。冒頭からぞくぞくさせられやがて幻想の世界、色彩感豊かな花園へと誘われる。9月26日朝8:43~約32分間。