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191. 流石名曲、タルティーニのヴァイオリンソナタ「悪魔のトリル」:イタリア・バロックと言えば先ずヴィヴァルディー、その明快さは彼独特のもので真似できないが、タルティーニもその抒情性は彼独特のものでヴィヴァルディーに負けず劣らずバロックの華である。その代表作である「悪魔のトリル」は有名でも、クライスラーによる変曲の方がお馴染みで原曲を聴く機会は案外少ない。表題の通り概して劇的だが、オブラートに包まれた原曲の方がバロックらしくて良い。さてインゴルフ・トゥルバン(Vn)/イヴ・サヴァリー(Vc)/ウルズラ・デュッチュラー(Cmb)の演奏、第1楽章のヴァイオリンが部分的に弱腰な箇所を除いて闊達、抒情的で、特に終楽章「悪魔のトリル」の部分などドラマチック、流石名曲だと納得させてくれる。7月9日朝7:35~約25分間。
192. グリュミオーの妙演オン・パレード、サンサーンスほか:アルテュール・グリュミオーはヴァイオリンを艶やかに極めて優雅に鳴らすLP時代の名手である。例え満足な演奏でなくともそうした彼の真骨頂を愛して止まないファンが今も多い。その彼の演奏が8月1日朝900~約90分間。その中次の各曲は彼らしい妙演である。ルクーのヴァイオリンソナタト長調(ピアノ:リッカルド・カスタニョーネ)、サンサーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ 」と「ハバネラ 」(双方ともマニュエル・ロザンタール指揮ラムルー管弦楽団)、クライスラーの「ベートーヴェンの主題によるロンディーノ」とフォーレの「夢のあとに」(双方ともピアノ:イシュトヴァーン・ハイドゥ)である。ルクーは曲自体はともかくグリュミオーの母国、ベルギーのお国ものだけに熱が入っていて芯も通っている。サンサーンスは踏み込み不足な部分もあるが、巧緻さ、品格、優雅さは相変わらずで嬉しい。オケも活き活きして巧い。クライスラーとフォーレの小品は深み、華やぎも加わっていて聴き栄えする。
193. 優雅、緻密、巧妙なマリナー/アカデミー、喜遊曲K.334:モーツァルトは喜遊曲を沢山作っているが、曲の用途、性格故か概して深みに欠け実りが少ない。ただしニ長調 K.334は例外で、各楽章ともメロディアスにして陰と陽が交錯する場面もあり魅力的。明朗な曲想の連続ながら飽きないのは、主題がエレガントのみならず展開が自然で巧いから。さてネヴィル・マリナー/アカデミー室内管弦楽団の演奏、優雅、緻密、巧妙なアンサンブルを聴かせてくれる。弦特にヴァイオリンが一糸乱れずよく通っていて美しい。有名な第3楽章メヌエットも良いが、両端、殊に終楽章が高貴、可憐で素晴らしい。8月11日朝7:27~約46分間。
194. 異色、型破りのフルート協奏曲、ニルセンに一筋の明かりが:美しく羽ばたくソロに対して、ハード・ボイルドな豪快オケ、双方が溶け合うどころか独立して競うような型破りの第1楽章が印象的。次楽章は双方が調和する定型の協奏曲スタイルながら華やいだ雰囲気が心地よい。なかなか取り得の見出せなかったニルセンに一筋の明かりが射したようだ。ジェームズ・ゴールウェイのソロと指揮、デンマーク放送交響楽団の好演に負うところが大きいか。8月12日朝8:51~約24分間。
195. ブラームスのピアノ協奏曲 第2、期待に応えたリヒテル:協奏曲とは言え大規模、豪壮なのでソロは先ずオケに負けない剛腕を必要とし、厚みと深みが加われば鬼に金棒である。その点スヴャトスラフ・リヒテルは適任でほぼ期待に応えてくれている。スケールもメリハリもある。オケのエーリヒ・ラインスドルフ指揮シカゴ交響楽団も特長こそないが、上質な響きを聴かせ先ず々。ただ残念ながら第3楽章はソロ、オケとも冗長、散漫で頂けない。8月31日朝7:41~約53分間。音質さえこだわらなければ、エトヴィン・フィッシャー/フルトヴェングラー指揮ベルリンフィルのソロ、オケとも豪壮で気迫漲る名演(1942年録音)がある。