過去の掲載記事(45)
221. ポリーニの手堅い、オーソドックスなベートーヴェン「熱情」:当時の最新ピアノの性能を存分に活かした名作であるが、技巧に走って只々弾きっ放しの演奏に成り勝ち。その点マウリツィオ・ポリーニは手堅く、オーソドックスに仕上げているので、他のアーティストの演奏を評価する格好の基準になる。何より打鍵が頑丈でいかにもベートーヴェンらしいし、殊に終楽章は文字通り情熱的な力演になっている。5月25日朝7:26~約28分間。
222. チャイコフスキーのロココ風の主題による変奏曲op.33:良かったか悪かったか彼独特のコクと言うかアクのあまり感じられない、曲名からして端正な造りをしている。一方チェロの弾き方次第で盛り上がる起伏のある快作とも言え、このソロが演奏の鍵を握る。ややもすれば地味を通り越して貧相にもなる。アルト・ノラスと言うチェリストは馴染みがないが、滑らかで達者、感性も良さそう、ユッカ・ペッカ・サラステ指揮フィンランド放送交響楽団とリッチな好演を披露している。ソロとオケの好バランス、好ハーモニーも聴きどころ、録音芸術の華である。5月31日朝8:07~約22分間。
223. Cl.ソナタならばブラームス、風趣に富むop.120-2:クラリネットソナタならば先ずブラームス、それも第2番であろう。彼晩年の作、全3楽章とも「わび、さび」が効き風趣に富む。クラリネットの柔和な音色が存分に活かされている。そんな名曲なので演奏は大抵何とか恰好付くが、ピカイチとなるとなかなか無い。エルンスト・オッテンザマー/シュテファン・ヴラダーも今一歩突っ込み足らずで不満なのだが、曲想はしっかり捉えており、ムーディーなのでまずまず楽しめる。6月 2日朝8:48~約27分間。
224. 血が通う、美しい達演、グリーグの抒情組曲op.54:彼自身がピアノ曲、抒情小曲集中の数曲を管弦楽にしたもの、巧みな編曲によりピアノで聴くのとはまた別の味わいが楽しめる。文字通り深い郷愁、温もりの感じられる快作である。それをネーメ・ヤルヴィがイエーテボリ交響楽団を率いて新鮮、颯爽、抒情豊かに歌い上げている。弦も管もきめ細やかに血が通う、実に美しい達演。6月17日朝8:38~約20分間。なおこの盤には同じグリーグのピアノ協奏曲が入っているが(演奏者は同上その他)、弛緩していてとても聴けないのでご用心。
225. 貴重なリリー・クラウスのモーツァルト・ピアノ協奏曲第12:彼のピアノ協奏曲には数々の名作があるだけに当曲はまだまだ未熟とされてしまうが、結構充実した造りをしていて捨て難い。演奏次第でぐいぐい引き込まれる。リリー・クラウス/スティーヴン・サイモン指揮ウィーン音楽祭管弦楽団はまさにそれだ。ソロは彼女持ち前の芯の強さがコクに繋がり、オケはさわやかなウィーンスタイルでソロと巧く調和している。特に終 楽章が一瞬の陰影が印象的で良い。元々録音が少ない中貴重な一枚である。6月24日朝8:47~約28分間。なおクラウスにはモントゥー/ボストンとの名作同第18番の妙演がある。