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256. ソロ・ヴァイオリンが活き々しっかり、イ・ムジチによる「四季」:ヴィヴァルディと言えば先ず「四季」であろう、これほど色彩感に満ち溢れメロディーが親しみ易い曲は他に見当たらない。イ短調のヴァイオリン協奏曲op.3-6とともにクラシック音楽ファンならずとも一度は耳にされたに違いない名曲である。しかし演奏となると易しそうで実は難しい。勢い楽譜をなぞるだけに終始するか、ヴァイオリン協奏曲なのにソロがオブリガートさながら、貧相なムードミュージックに陥り易い。イ・ムジチ合奏団の演奏もかつてはボテっとして引きずっていた印象だが、代を重ねるうちに引き締まって来ている様子。マリアナ・シルブのソロによる「秋」(1995年録音)とマルコ・フィオリーニによる「冬」(2021年録音)は共にソロが活き々しっかり、オケが立派で濃い口、垢抜けている。昨今古楽器による演奏が多い中モダン楽器を使用しての効果か、いや磨かれたセンスと技量の賜物と思いたい。4月16日「名演奏ライブラリー」にて。
257. 往年のベテラン勢による熱演、ラヴェルのピアノ三重奏曲第1楽章:弦楽四重奏曲と並んで彼の遺した室内楽の名作、全4楽章それぞれに違った味わいが楽しめ好調だが、中でも第1楽章はしみじみ、切々と心を揺さぶる。演奏も先ず第1楽章の出来が鍵で思わしくなければそこまで聴いてお終いだが、往年のベテラン勢、ルイス・ケントナー(ピアノ)/ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)/ガスパール・カサド(チェロ)の演奏は流石で最後まで聴けた。殊に第1楽章が出色で両弦が心血を注ぎ通わせ熱演を披露、録音技術の賜物か奥行きと立体感もある。その他カサドによるラヴェルの「ハバネラ形式の小品」、フォーレの「夢のあとに」および「エレジー」等もかなり踏み込んだ深みのある好演、ピアノ・原智恵子のフォローが光る。4月23日「名演奏ライブラリー」にて。
258. ムードとリズムがヒナステラ独特、ピアノソナタ第1番:ヒナステラはその名をあまねく知られてはいまい。しかしその作風は現代的で異色、生国アルゼンチンの風土に溺れず様式をしっかり整え只の現代作家とは一線を画する。代表作はハープ協奏曲だが、このソナタも短いながら興味深い。主張のぎっしり詰まった聴き応えのある準名曲、ムードとリズムが彼独特のものだが、一人よがりでなく聴き手を和ませる。全4楽章が有機的で有意義、自然かつ快適である。マティアス・キルシュネライトと言うとあまり馴染みがないが、曲想を的確に捉え巧みな好演を聴かせてくれた(2022年8月、ドイツでのライヴ)。4月25日「ベストオブクラシック」にて。かなりの年配ベテランらしく並のピアニストではなさそう、他の演奏も今後楽しみ。
259. メロスQによる練度の高い、シューマン・弦楽四重奏曲第3番:彼の弦楽四重奏曲はブラームスもそうだが地味で取っ付きにくく一部だけつまみ食いならぬつまみ聴きする位が精々。ところがこの第3番は演奏次第で全楽章通して退屈せず聴ける。殊にメロス四重奏団のそれは練度が高く、ハーモニーが美しく、響きが高らかで リッチ、シューマンに必要なコクもある。5月7日放送の「名演奏ライブラリー」にて。なお同時に同奏団による他の曲も聴けいずれも好演だが、中でもシューベルトの「断章」は曲が良いだけにお勧め。
260. 溶け込む熱演、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第2:綺麗とはとても言えない灰色の一向に晴れる気配を見せない異様なムードからいきなり奇抜なリズムによる掛け合いで走り抜ける彼流のパターンがこの曲にも通じている。第1番も同様だが、この第2番の方が変化と起伏が大きく全楽章を通して親しみ易い。演奏だが、ワディム・グルズマン/ワシーリ・ペトレンコ指揮フランス放送フィルはソロとオケがよく調和し両者互にしっとり溶け込んでいる。第1楽章のソロは普通だが、その後次第に熱を帯びて柄も大きくなり、終楽章のオケとの掛け合いには聴いていて思わず力が入り惹き込まれる(2022年6月パリでのライヴ)。グルズマンはかなりのベテランとか、他の演奏も楽しみ。5月9日放送の「ベストオブクラシック」にて。