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266. ミケランジェリにピッタリ、ベートーヴェンの「皇帝」:ベートーヴェンのピアノ協奏曲中最も彼らしい準交響曲、力強いソロと豪壮なオケによるまさしく「皇帝」の威風を感じさせる大曲である。従って演奏にはソロ、オケ共に先ずスケール感、立体感を必要とし、その上で個性、センスが問われてくる。アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリは基本的に骨格がしっかりしていてこの曲向きかとかねて期待していたが、実際打鍵に弾性があり彫も深くてピッタリ。更に要所々的確なテンポ設定とともに細やかなニュアン スを醸し出し、平板、薄手になり勝ちな中間楽章もじっくりウェットに仕上げている。バックのカルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン交響楽団はオーソドックスでやや鈍いが豪壮でソロとの相性も良い。1979年ウィーンでのライヴ。7月26日朝8:01~約44分間。
267. 原曲より数段格調高いハチャトゥリアンのフルート協奏曲:ランパルによる編曲だそうだが、原曲のヴァイオリン協奏曲より数段品格が上がりローカル臭がカバーされた印象、かなり複雑なパッセージの難曲に違いない。それにフルートのエマニュエル・パユは全力を注いでエキゾチックな雰囲気をしっかり醸し聴き手を離さない。特に中間楽章が香高い。デーヴィッド・ジンマン指揮チューリヒトーンハレ管弦楽団も好演を披露、結構劇的だがすっきりして旨味十分、ソロともども垢抜けしている。7月27日朝9:08~約41分間。さてランパルも入れているはず、持ち前の優雅な音色を活かせばさぞ素晴らしかろう、聴いてみたいもの。
268. フレスト/レオンコロによるコクのあるブラームス・Cl.五重奏曲:彼最熟年の無常と言うかはかなさを感じる枯淡な名作、クラリネットの魅力を最大限引き出している。いずれの楽章もよく練られていてモーツァルトのと共にこのジャンルにおいてピカイチだ。演奏にはソロと弦とのバランスはもちろんのこと弦の質、表現力が問われるが、マルティン・フレスト(クラリネット) /レオンコロ四重奏団はよくこなれた、ムーディーなソロと情熱的な艶やかな弦によるコクのある好演を披露。双方のハーモニーが素晴らしく一体化している。2023年4月ロンドンでのライヴ。7月27日放送の「ベストオブクラシック」にて。
269. デュメイの垢抜けした熱演、グリーグ・ヴァイオリンソナタ第3:彼のヴァイオリンソナタは3曲とも中小型で聴き応えが今一だが、この第3番はメロディアスかつムーディーなので親しみ易い。そんな人気曲なので多くの盤があるが、異色なのがオーギュスタン・デュメイ/マリア・ジョアン・ピレシュ、ヴァイオリンが風格こそないが起伏、盛り上がりのある熱演を披露。ピアノもじっくり詩情を込めたややスローテンポの中間楽章が印象的。全体としてテンポの妙により垢抜けし郷土色のほのかなのが良い。8月11日朝8:02~約26分間。
270. 初々しく新鮮な好演、タルティーニのソナタ「悪魔のトリル」:イタリアバロック・ヴァイオリン界を代表する彼が遺した名曲の一つ、技巧を凝らし起伏、変化に富んでおり、抒情的である。名演とはご無沙汰している中、三浦文彰/田村響の演奏はそれに準ずる出色の仕上がり、ヴァイオリンが初々しく新鮮でのびやか、要所々熱を帯び、聴き手の心に沁み亘る。意欲的で表現力に長けており、今後貫禄も付いて来よう。ピアノは控えめだが曲想の機微をわきまえヴァイオリンに溶け込むように自然だ。8月25日朝9:24~約15分間。