286. 演奏次第で魅力を発揮、モーツァルトのピアノ協奏曲第12:彼のピアノ協奏曲が後期作を中心に名曲揃いな分この12番は半ば埋もれ損している印象。しかしそれら名曲達を意識しなければ、演奏次第で潜在的な魅力を引き出し挽回できることがわかる。すなわちスタニスラフ・ブーニン/クラウディオ・シモーネ指揮ソリスティ・ヴェネティ合奏団はテンポ、強弱とも絶妙でよくこなれた艶やかなソロ、繊細で弦の特に美しいオケ、双方がしっとり溶け合い好演を披露。また残響のある割には楽器群がクッキリ浮かぶなどスタ ジオ選びから音色、音響の調整まで録音に苦心の程が窺える。2月27日朝9:21~約27分間。
287. ソル・ガベッタの好演、濃密に仕上がったエルガー・チェロ協奏曲:大方もやもやしてはっきりしないエルガーにとって珍しくコンセプトが伝わって来る数少ないヒット曲の一つ。それでも並みの演奏ではピンと来ない中、ソル・ガベッタ/パトリック・ハーン指揮 ベルリンドイツ交響楽団は深く踏み込み朗々と歌う一方、細やかなニュアンスを的確に表現しているソロと堂々として如何にもドイツ的な太々しいオケ、両者相まって濃密に仕上がった。2023年4月ベルリンでのライヴ。2月29日放送の「ベストオブクラシック」にて。
288. アンチェルが奮った絢爛豪華盤、ヤナーチェクのグラゴル・ミサ:とてもミサ曲、否宗教曲とは思えない管弦楽合唱協奏曲と言ったところか、オケ、合唱、ソロ・シンガー達そしてオルガンまでとことん活躍する派手、壮大な造り、ヤナーチェクの遺した最大の偉業であろう。演奏にもよるが彼独特のカラーはともかくローカル臭が薄い分聴き易い。カレル・アンチェルにと ってもこの曲がお国もののせいか自身チェコフィル(+ドマニーンスカ、ソウクポヴァー、ブラフト、ハケン、チェコフィル合唱団)を大いに奮って指揮しており、それに応えて各パート一糸乱れず高らかに響かせ絢爛豪華な好演を披露。恐らくアンチェルのベストフォームではなかろうか。1963年の収録だが、とかく音がつぶれ易い合唱部も綺麗に入っていで現在でもなかなか得難い広角の好音質に恵まれた。3月14日朝9:06~約43分間。
289. ジュリアードQが熱演、ベートーヴェンの弦楽四重奏op.130:彼後期のop.131、132に次いで優れた秀作、心の内に切々沁み入る枯淡な味わいが格別である。しかしその表出は難しく多くの奏団が手掛けてはいるものの折角の曲想を活かし切れない。そうした中ジュリアード弦楽四重奏団がライヴにて熱演を聴かせてくれた(2023年10月紀尾井ホール)。ベストとまでは行かないが、コントラストを効かせて立体的、クッキリして緊密、歌謡さながら抒情的、概してパフォーマンスが大きく劇的と言った印象。なおこの後弾いた大フーガop.133も悪くない。3月7日放送の「ベストオブクラシック」にて。
290. 情熱的な好演、ブラームスのピアノ三重奏曲第1op.8:当ジャンルはピアノ四重奏曲とともに彼の室内楽の華であり、中でもこの1番は彼独特のコクこそ未完熟ながら最も歌謡的で親しみ易い。殊に両端楽章はメロディアスかつ劇的、充実している。しかし演奏は弦が2本のみのためピアノの威勢に押され勝ち、しっかりした弦が求められる。その点ジョシュア・ベル(Vn.)、スティーヴン・イッサーリス(Vc.)、ジェレミー・デンク(Pf.)はチェロがやや控えめながら全体として好バランス、好ハーモニー、情熱的な好演を聴かせてくれる。なお珍しく1854年版(初稿?)を弾いている。3月21日朝8:01~約40分間。