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291. ラフマニノフ独特のコクが発散、悲しみの三重奏曲op.9:チャイコフスキーの死を悼んで作ったそうだが、その名の通り悲嘆に暮れた、余程のショックだったか時々高ぶる思いが抑えられず発散する切実、一途な曲、しかしダーク・グレイッシュな色調のままあまりに長いので通して聴くのはしんどい。結局クライマックスのある冒頭と終楽章を聴くだけでラフマニノフ独特のコクは十分と言うところ。演奏はこのジャンル(ピアノ三重奏)、弦がピアノに負けない好バランスを要するが、その点ギドン・クレーメル(Vn.)、ギー ドレ・ディルヴァナウスカイテ(Vc.)、ダニール・トリフォノフ (Pf.)は弦も熱を帯び積極的、ピアノとのハーモニーが良好、両者共々厚みのある先ず々の出来栄え。欲を言えば、ややずん胴な印象があるので緩急、抑揚を巧く付けエレガントに仕上げてもらいたいもの。3月27日朝8:57~約52分間。
292. マゼールによるムーディーな好演、ファリャの「恋は魔術師」:「スペインの庭の夜」とともに彼の代表作であり、同じバレエ音楽の「三角帽子」と比べソフトでムーディー、まるでスペインの風土に呑み込まれたように超異国的かつ洗練された造り、結構エレガンントにして快適。そんな演奏をグレース・バンブリーのメゾソプラノ、ロリン・マゼール指揮ベルリン放送交響楽団が聴かせてくれる。堅実、緻密のみならずコントラストの微妙に効いた程良く劇的な、情感豊かでムーディーな一方各楽器群がくっきり浮き立つ好演。録音精度の高さも一役買って立体感、臨場感一入である。4月9日朝8:30~約25分間。
293. 歌心と色彩感が沸き立つ熱演、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1:ブルッフの代表作でありヴァイオリン協奏曲切っての名作、弾き手に馴染み易いのか、一角のプロなら程々聴かせる。アンネ・ゾフィー・ムター/ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリンフィル盤もそんな一枚と思いきや、存外びっくり、程々どころか、ソロは若手女流ならではの歌心と色彩感が沸き立つ熱演、出出しはともかく曲の進行につれ熱を帯びて来て、第2楽章に入り絶好調、かなりのスローペースながらも弛緩することなく可憐に熱唱、ついついうっとりさせられる。カラヤンも何時になく旺盛で積極的、ソロと巧く調和している。ところが終楽章ではソロの非力が露呈、壮大なオケに力負け、前2楽章が結構好かっただけに残念でならない。4月14日朝9:01~約31分間。
294. 濃厚に仕上がった力演、ブラームスのピアノ三重奏曲No.3:彼のピアノ四重奏曲、同五重奏曲とともに室内楽の華であり、殊にこの第3番は彼後期、円熟期の充実作、渋くてほの暗いが、がっしりとしてインパクトがあり如何にもドイツ的。しかし弦、特にヴァイオリンがひ弱だとピアノに隠れ勝ち、バランスをどう取るか、録音調整も含めて演奏は容易でない。そんな中、サーシャ・マイスキー(Vn.) /ミーシャ・マイスキー(Vc.) /リリー・マイスキー(Pf.)は結構弦が健闘してピアノと協調、ブラームスらしく濃厚に仕上がった。一方ファミリー親子の演奏とあって張り切り過ぎたか 、所々力みが入り迫力とは裏腹に荒っぽく、艶や香しさに乏しい。ライヴ録音(2023年7月ドイツ・ハーゼルドルフ)なので仕方ないが、好演の干天状況下如何ばかりか慈雨になる。4月8日放送の「ベストオブクラシック」にて。
295. ソロ、オケとも好調、チャイコフスキー「懐かしい土地の思い出」:ヴァイオリンとピアノによる原曲がグラズノフによってオーケストレーションされて盛り上がりよりムーディーになった。彼は元々曲造りの上でコク付けが巧い、アクにならない程々を心得ていてエレガントに仕上げた。こうした準名作のせいか凡演でも一応楽しめるのだが、ギル・シャハムのヴァイオリン/ミハイル・プレトニョフ指揮ロシアナショナル管弦楽団は結構行ける。ソロは線は細目だが弾力があり、じっくり歌い込むが艶やかで垢抜けしている。終楽章など主題を再度聴かせてもらいたい位短く感じ心残りだった。オケもソロとのハーモニーが心地良く、木管特にクラリネットがソロと巧く絡み合いうっとりさせられる。好音質も一役買っている。4月30日朝8:54~約20分間。