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321. レニングラードフィルがお国ものを力演、プロコフィエフ・第5:彼の作風は概して奇抜、妙ちきりんでしっくり来ないことが多い。そんな中好演に支えられたのかこの交響曲が我が心を揺さぶった。第1、3楽章は堂々としたオーソドックスな、第2、4楽章は彼独特の個性的な造りで配置、構成が的を射ている。こうした印象がマリス・ヤンソンス指揮レニングラードフィル盤から聴き取れた。緻密で豪壮、金管の響きが高らかによく通る。お国もの演奏ならではの力演だ。正に音の饗宴なのでオーディオファンに持って来い だが、第3楽章など神秘的、幻想的で内実を感じさせる。これ程管弦楽の音響を満喫できる盤は久々、新録音でもないのに思わぬ成果、それもライヴらしい、驚きだ。3月12日朝8:33~約41分間。
322. しっかり厚く響かせ先ず々のスメタナQ、モーツァルト「狩り」:弦楽四重奏曲ならば先ずベートーヴェンそしてモーツァルトだろう。前者は高邁な精神性、後者は繊細、優美な感性を特長とする。更にモーツァルトならば先ず詩情の熱いニ短調K.421次いでこの明朗で親しみ易いK.458「狩り」が名曲として挙げられる。後者は全4楽章とも揃ってメロディアスなので弾き易そうに思うが、意外に名盤がなかなか生まれない。スメタナ四重奏団の演奏もオーソドックスの域を出ないが、各メンバーが均質で好バランス、しっかり厚く響かせており先ず々。程々に情感が籠り全楽章とも出来不出来ないのも幸い。3月20日朝8:19~約25分間。
323. 内田光子が好弾き振り、モーツァルトのピアノ協奏曲No.23:ソロに個性やひらめきこそ無いが、第1楽章は端正で細緻、聴かせ処をしっかり押さえ先ず々。中 間楽章はややテンポを落としてしっとり抒情的で良いが、慎重が過ぎてちょっと薄弱。最も好調なのが終楽章、大波、小波に乗って邁進するようで浮き々して来るし、中間の転調部フォルテシモが効果的、以降も波状動的、終盤は雪崩れを打つ勢いだ。オケ・クリーヴランド管弦楽団は質はともかく弾き振りが効を奏してソロとの調和、一体感が心地良い。双方ともが意気投合した好演と言える。なおライヴ録音(2008年米国)だが、演奏直後の歓声など雑音が無いのも何よりだ。3月22日放送の「音楽の泉」にて。
324. ムジークフェラインQの好演、ブラームス・Cl.五重奏曲:ブラームスのクラリネットに傾ける情熱には並々ならぬものがあり同ソナタと室内楽のいずれも心に溶け込むように味わい深い。殊にこの五重奏曲はモーツァルトのと共に双璧をなすもの、ほのかな哀愁の漂う美しい旋律に彩られた名曲である。また川の流れにゆったり身をゆだね下り行く超自然的な作風なので弾き易いのか聴ける演奏がままあり困らない。ペーター・シュミードルのソロとウィーンムジークフェライン弦楽四重奏団もスムーズで先ず々行ける。弦が可憐で抒情的ながら過ぎずスッキリしているところが印象的、ウィーンスタイルの好演と言える。ソロは今一主張が足りない感じ。4月17日朝7:50~約37分間。
325. ポリーニとヨッフムが力演、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1:盛年マウリツィオ・ポリーニと老練オイゲン・ヨッフムがウィーンフィルを指揮しての稀有な巡り合わせだが、カール・ベームが没した直後の代役だったか。それはともかく共演は成功した。元々堅実なヨッフムだが、加えてコントラストを効かせ、豪壮で図体、風呂敷ともに大きく、ずしんと圧力を感じさせる。ソロはそんなオケに埋もれず前面に押し出しかつ美しく艶やかな音色で響かせている。殊に中間楽章のくっきり、精緻かつ情感豊かなタッチにはうっとりさせられる。とかく輪郭がぼやけてしまうピアニシモまで克明なのも特長だ。総じてソロ、オケとも濃厚、風格十分で、従来のこの曲のベートーヴェンにしては軽妙なイメージを一新する堂々とした後の第5「皇帝」を想わせる力演。4月21日朝8:02~約40分間。NEW