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3.ティボーのモーツァルトヴァイオリン協奏曲No.6 K.268

    不幸にも偽作とのことから演奏、録音とも敬遠されているが、冒頭からいきなり主題に入り、聴き手を引き込んでしまって放さない、極度に凝縮された名曲である。この滋味深い、円熟した、滑らかな、ほの暗い旋律をモーツァルトでなく、誰が描いたというのか?。全楽章とも素晴らしいが、白眉は第1楽章、次いで第3、第2楽章の順か。東京オリンピックの頃私の高校生時代のこと、ジャック・ティボーのヴァイオリンで、父に初めて聴かせてもらった。あまりの感動に息を飲んでしまい、しばらく身動きできなかった。ヒズ・マスターズ・ヴォイスのSP盤を往年の手回し蓄音機英国製「202号」か「203号」で再生させオープンリールに録音したものとか。ただたとえ名機の再生音であっても、その録音の音質が不満足だったので、再度聴くことはなかった。その後ユーディ・メニューイン&同指揮バース祝祭管弦楽団の盤が出て、NHK-FMからエアーチェックしよく聴いた。ただこのメニューイン、健闘しているのだが、「ティボーならもっとこう弾くのに」と歯痒くもあった。その後ジャン・ジャック・カントロフ&レオポルト・ハーガー指揮オランダ室内管弦楽団盤が出たので聴いたが、同じ思いで変わらなかった。最近になってティボー&マルコム・サージェント(楽団名は不明)のCD(EMI)が出たので、懐かしいあれではと思い、音質は二の次で跳び付いた。これぞまさしく長年焦がれていたあの演奏で、音質が昔聴いたものより格段に向上している。これでやっと念願がかなった。父・盤鬼が生きていたら共に喜べたことと感じ入る次第である。

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