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4.名曲ながら名演奏の乏しいモーツァルトの交響曲No.40

    第39番とともにモーツァルトの残した屈指の名作、冒頭からいきなり可憐、華麗な主題に入る第1楽章などクラシックファンならずとも多分耳にされていよう。しかしこの主題は譜面上は容易でもどう表現すべきかとても難しく、素っ気無いものから鈍重なものまで、満足な演奏が見当たらない。往年の巨匠達の演奏を振り返ると、先ずフルトヴェングラー/ウィーンフィル(1948年録音)は第1楽章は速いテンポで軽い印象、第2楽章はしっとり、弦が綺麗で好ましい。次いでブルーノ・ワルターは抒情的な面は好感を持てるが、ニューヨークフィル盤(1953年録音)は両端楽章が録音精度のせいかボテっとしてやや鈍い一方、第3楽章メヌエットはしっかり締った好演、コロンビア交響盤は第1、2楽章ではワルターの老境を思わせる寂りょうを感じ、終楽章は心地良いテンポで要所々を押さえた見事な演奏。カール・ベームは、ベルリンフィル盤は弛緩気味な第1楽章をはじめ全体として今一歩振るわず、ウィーンフィル盤もムーディーな第2楽章を除いてのろく鈍く頂けない。盤鬼は以上のような概して沈着ないし重々しい演奏は好まず、彼の著書『名曲この一枚』(1964年刊)ではトスカニーニ/NBC交響盤(1950年録音)を推し、その後乾いた音質に不満だったのだろう、やがて日本でもリリースしたアンドレ・ヴァンデルノート/パリ音楽院盤を『私の終着LP』(1984年刊)にて褒めている。なるほど両者とも颯爽、明快な演奏だが、後者の方が同じモノラル録音ながら音質が自然かつ壮大である。一方盤鬼の目には留まらなかったが、ジョージ・セル/クリーヴランド盤は第3楽章が幾分ずん胴な感を否めないものの、第1楽章をはじめ華やぎと陰影を合わせ持つこの曲の真骨頂を捉えた名演に近い出来である。特に典雅、絶妙な、ヴァイオリンのハイピッチが美しい終楽章は素晴らしい。若さが前面に出たヴァンデルノート盤にはない巨匠の成せる円熟味が楽しめる。ステレオ録音で音質も申し分ない。以上は1960年代までの録音だが、この後のものではクーベリック/バイエルン放送交響盤(1985年ライヴ)がやや間延びしながらも抒情的、歌謡的、張りのないメヌエットの後生気を取り戻した終楽章がリズミックで快適、そしてリッカルド・ムーティ/ウィーンフィル盤は音色が上質で綺麗、颯爽として優雅な第1楽章が良かった。なおその他印象の薄かったものだがご参考までに下記しておこう。カラヤン/ベルリンフィル、サヴァリッシュ/チェコフィル、シューリヒト/パリオペラ座、バーンスタイン/ウィーンフィル、アバド/モーツァルト管(ライヴ)、ブロムシュテット/ドレスデン国立、チェリビダッケ/ミュンヘンフィル(ライヴ)、ベリンカンプ/オークランドフィルハーモニア(ライヴ)、ミンコフスキ/レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル。

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