6.実りあるピアニスト達、不毛なヴァイオリニスト達
昨今のアーティスト達の演奏を聴いて総じて感じることを、鍵盤楽器奏者、弦楽器奏者各々を代表してピアニストとヴァイオリニストについて一言二言。ピアニストはかつてSP時代に活躍したコルトー、M.ロン、パッハマンは別格として、LP初期のE.フィッシャー、バックハウス、ハスキルは往年のリスナーにとってお馴染みで数々の名演を残してくれた。それらを物差しとし昨今のピアニストの水準を計ると、これら名手にかなり近い、魅力的な面々に出会う。代表格はマリア・ジョアン・ピレシュで特に彼女のモーツァルトはハスキルばりで滋味深い。アンヌ・ケフェレック、エマニュエル・アックスにも好演が際立つ。チェンバリストも草創期のランドフスカには遠く及ばないもののクープランやラモーのものを除けばかなり聴かせてくれるようになった。かつてのモダンチェンバロでなくオリジナル(古楽器)を弾くようになり音色が風趣豊かになったのも大きい。一方ヴァイオリン界はどうか。こちらは不毛と言う他ない。凡そ小奇麗な演奏に終始する面々がほとんど。まさに弓が弦の表面を撫でているだけ、もっと弦に深く体重を乗せたらと思う。古楽アンサンブルのソリストもしかり、せっかくのバロックヴァイオリンが勿体ない、もっとしっかり鳴らしてほしい。弦楽四重奏団がとかくもの足りないのもヴァイオリンがか細いから。テレビタレントとして活躍の諸氏にはその分腕とセンスを磨いてもらいたい。とにかくティボー、クライスラーをはるか遠くに崇める現状が続いている。せめてグリューミオ・クラスが出て来てほしい。そんな中マキシム・ヴェンゲーロフは艶と芯を併せ持ち安心して聴ける、もう一歩深く踏み込んでほしいところだが。チェリストは名人カザルスほどの個性はないが、フルニエやロストロポーヴィチに近い演奏を耳にするのでまずまずと思う。何はともあれヴァイオリン界に一層の奮起を期待する。